大会長挨拶

 高齢化が進行し,疾病構造も五大疾患(悪性腫瘍,脳血管疾患,心疾患,糖尿病,精神疾患)など慢性疾患を主体とする疾患に変化し,日本の医療が病院から在宅・地域に移行する中,看護職は重要な役割を担うことが期待されています。特に,看護職には,患者を病気や疾病,生活というトータルな側面からとらえ,患者のセルフケアを推進し疾病予防・病気の重度化予防を行い,地域での生活を推進する役割が期待されています。悪性腫瘍,脳梗塞や心疾患,糖尿病,精神疾患など慢性疾患患者のセルフケアは、患者の退院,地域生活を促進することが明らかになってきており(宇佐美ら,2015),ケア困難患者に対してもその有効性は示されています。患者自身のセルフケアは,慢性疾患悪化予防と慢性疾患をもつ患者のQOL向上,地域での療養生活期間の延長,再入院防止に貢献することが周知の事実となっています。精神看護においても,オレムの看護理論を発展させたオレム・アンダーウッドモデルが,1985年以降日本に導入され,精神障害者のセルフケアを促進し,地域生活を推進するとして臨床,教育,研究に用いられています。このモデルは精神力動理論を患者理解のために用いられセルフケアを促進する理論として,有効性についても多く報告されています(南・稲岡,1987)。

 しかしながら実践現場でどのように用いることができるのか,具体的に示した手順書は皆無です。さらに,ケア困難患者になるほど,患者のセルフケア理論を用いた看護だけでは効果が表れにくく,患者,患者をとりまく家族,治療チーム,地域支援チーム,組織に対する介入も必要となり,個人と組織への介入が同時に行われることで患者のセルフケアが促進されることも明らかになってきています(宇佐美,2016)。すなわち,ケア困難患者へのセルフケアへの介入は同時に患者をとりまく家族・組織への介入も必要であり,個人のセルフケアと同様、家族・治療チーム・アウトリーチチーム・組織への効率的・効果的介入が必要となってきています。

 それにともないcureとcareを統合した看護が必要となってきており,それは高度実践看護の発展にも示されています(小山ら,2004;有働,2017;宇佐美,2018a)。また,日本において1987年から資格認定制度の検討が始まり,1994年に専門看護師制度(Certified Nurse Specialist,CNS)が,1995年に認定看護師制度(Certified Nurse,CN)が発足しました。CNSは2018年4月現在2,104名が存在します。さらに近年ではNurse Practitioner(NP)が育成されはじめ,CNS,NPなど高度実践看護師(Advanced Practice Nurse, APN)の育成が始まっています。NPの認定については今後急速に検討されていきますが,CNS/NPなどのAPNを社会ニーズに沿ってどう育成・活用するかは今後の日本の医療・看護の重要な課題となっています。特に五大疾患,高齢者が増え,重複疾患を有する患者が増えていく中,APNがこれらの患者のセルフケアを効率的・効果的に改善し患者の地域生活定着を促進し再燃・再入院・再発を予防することは,現在の医療問題を解決するカギとなっています。

 PASセルフケアセラピイ(PAS-SCT)とは,精神看護におけるこれまでのオレム・アンダーウッドのセルフケアプログラム実践を支援する技法の再体系化です。PAS-SCTは,APNによるオレムならびにオレム・アンダーウッドのセルフケアプログラム看護を発展させた力動的技法ですが,ただその当該患者のみに対応する単一技法ではなく,病院,コミュニティ,家族等の集団,組織への介入技法です。PAS-SCTは,患者個人への直接介入に加えて,集団,組織も分析対象とする総合的介入技法です(小谷・宇佐美,2018)。

 今回cureとcareの統合し、治療における看護の役割を明確に位置付け,看護および高度実践看護の特定行為をめざした看護をセルフケアセラピィと呼び,ケア困難患者や個人・組織への介入を介入技法として発展させる必要があると考え,本学会を設立することとしました。

 本学会を設立することで,1)オレムのセルフケアモデル,オレム・アンダーウッドのセルフケアプログラムにおける介入理論と介入技法の明確化,2)ケア困難になっている患者のPAS-SCTの適用とその成果の集約-CureとCareの統合と促進,3)事例研究,実践研究の活性化~セルフケアに関する実践・研究・教育の学術的連携の強化~,4)セルフケア看護介入に関する看護師,看護管理者,APNの育成~Core Competencyの開発~ を行うことができると考えています。

 第1回大会を平成30年9月2日に東京で開催し、南裕子先生、岡谷恵子先生はじめ100名の方々にご参加いただき、看護職の特定行為としての慢性疾患患者のセルフケア看護やケア困難患者へのセルフケアの介入技法に関する関心の高さを改めて実感いたしました。

 第2回大会は、大阪で開催です。

 ぜひ看護の中心的行為であったセルフケアへの支援について介入理論と技法を、看護職、高度実践看護職の中で定着させていければと考えております。皆様のご参加を心よりお待ちしております。

PASセルフケアセラピィ看護学会 第2回大会

大会長 宇佐美 しおり

​四天王寺大学 看護学部 看護実践開発研究センター 教授